2011年12月14日水曜日

12月の例会のお知らせ

12月例会は、今年も法政大学司書教諭課程「情報メディアの活用」の公開発表会と相乗りで行います。

日時:12月17日土曜日 15時30分〜16時40分
場所:法政大学多摩キャンパス 社会学部401教室

今年は、ipad2を使って映像を撮影、編集し、学校図書館のCMを作りました。
3つの学生グループの作品(+α)を見て、議論します。

どなたでも参加出来ます。無料。

2011年11月16日水曜日

■11月例会発表レポート                      『企業と消費者のコミュニケーション              ~コールセンターという視点からの考察~ 』


3回連続、雨天の中で開催された11月例会ですが、今回の発表者は、
夏以降例会に参加してくださっている川野さん。
コールセンターを運営しているテレマーケティング会社に勤務する川野さんは、
身近だが考察されることの少ない「電話」という19世紀からの歴史ある
メディアをビジネスで活用しています。 

19世紀からというと、非常に古いメディアのようですが、ケータイやインターネット
電話が急速に普及している現代では、仕事やコミュニケーションに欠かせない
重要な進化系メディアです。

発表は、大きく3つの節で、組み立てられました。
私たちの生活では身近ながらも、あまりその存在を考える機会のない
企業のコールセンター(コールセンターに対してプロフィットセンターとしての
存在価値を打ち出すために、「コンタクトセンター」ということもある)とういう
仕事について解説した
<1 コールセンターの業務>。 

続いて、企業のマーケティング活動の現状とコールセンターの果たす役割
についての解説した
<2 マーケティングの変遷とコンタクトセンター>。 

最後は、語られることの少なかった「電話」というメディアに関する川野さん的
考察である
<3 「電話」が持つ機能と役割について>。

1 コールセンターの役割 

テレマーケティング会社へ転職する前の川野さんのマーケティング会社に
おけるインドでの活動の話しが興味深かったです。
マーケティングとは、地道で細かい仕事が多いことを知りました。 

発表内容は、
「テレマーケティングの定義」に始まり、
「実際の業務のカテゴリーを示しての業務内容の紹介」、
そして、コールセンターによせられる消費者の意見・評価や川野さんの
考察を交えた「コールセンターに対する不満の分析」と展開しました。 

 話し方・応対マニュアルの究極とも言える40項目にもわたる
チェック項目があることを聞き、参加者も唖然・呆然・衝撃。
 

川野さんは、実際のコールセンターの女性オペレーター、業界内では
TSR(テレフォン・サービス・リプレゼンター)と呼ばれる彼女たちの応対品質を
チェックするミステリーコール(奇妙な名称?)を聞きながら、チェック項目等を
参考に評価するように求めました。 

 ミステリーコールとは、社員スタッフがお客様になりすまし、TSRの応対状況
から評価&チェックする偽電話のことです。 
TSRにとっては、評価のためのチェックとは知っていても、どれが
ミステリーコールかは分からない中で、真剣に対応せざるを得ないわけです。 

健康食品を販売している2企業へのミステリーコールは、かなり良い応対と
悪い応対の2例でしたが、これは皆はっきりと良否を判定できました。 

しかし、 
「こうした業務を日常的にやっていると、TSRを評価することが主目的に
なってしまうきらいがある。本当はセールス成績を挙げれば良いはずでは。
重箱の隅を突くような詳細なチェックが、本当に必要なのか疑問に思う
ことがある。」
との優しい川野さんの素直な感想が語られました。 

「TVショッピングやマスへの告知により、短時間に大量に販売する
受付業務では、詳細な商品知識や熟練度は必要なく、手順通りに
受注手続きを取れば良い。」、 
「本来はお客様とのファーストコンタクトが後の継続的な購買に繋がると
感じている。」、
「製品のテクニカルサービスでは、如何に解決するかが求めれれるから、
応対品質のポイントは観点が違ってくる。そもそも無料のサービスの場合は、
電話がつながりにくい回線数しか設けないし、低コスト化を図っている。」
・・・など。 
川野さんが業務で感じたジレンマを交え、解説は続きました。 

ここから、参加者のコールセンターやサービスセンターの利用経験を語り合う
時間となりました。 
家電製品、灯油ストーブ、パソコン、パソコン周辺機器など、さまざまな例が
示されました。 
TSRは企業の社員ではなく、契約・パート社員です。 
したがって、企業へのロイヤリティ(帰属意識)や商品に対する特別な思い入れ
はないのが普通です。 
しかし、電話を通じ、企業の顔としてお客様に接する重責を負わされているので、
お客は容赦ないようです。 
TSRたちは、応対で感じるストレスや監視に対する不安・疑問をひた隠しに
しながらも業務を遂行しています。 

かつて、電話交換手が、「完璧な交換手」としての規格化された質を量産する
訓練システムを生み、交換事業の拡大、スピードアップ、監視の強化の中で、
労働環境はかなり悪化し、低賃金の3K職場へと転換した(加藤晴明著
『メディア文化の社会学』P53)ことを思い起こさせます。 

そもそも、女性電話交換手は、19世紀末、アメリカの上流階級の男性に対して、
声を通じて「愛」と「癒し」を提供する中産階級の女性にとっての花形職業
として登場した(松田裕之著『電話時代を拓いた女性たち』)とのことです。 

TSRの業務は、1980年代の後半に電気通信事業が解放されたのちに
企業向けのサービスとして生まれた新しい専門職です。 
企業の顔として、企業と消費者を結び付ける重要な業務として脚光を浴び
ました。 
しかし、川野さんの話のように、業務は詳細にわたり画一化・マニュアル化され、
効率化並びに即効果を要求され、厳しい眼で監視されています。
同じ「電話」メディアに関与しているということもあり、TSRがまさに
電話交換手と同じ運命を辿っていることに、歴史の宿命的を感じさせてくれます。 
 
川野さんの会社では、常時6,000名のTSRと契約しているとのことですが、
その育成プログラムや教育カリキュラムについての具体的な説明は残念ながら
ありませんでした。 
中澤研究員は、その辺りに興味を抱いているようです。 
「ビジネススクールにおける電話応対訓練に留まらず、声優養成スクールでの
教育にも応用ができるのでは。」と中澤研究員。

2 マーケティングの変遷とコンタクトセンター 

「マスマーケティングからダイレクトマーケティングへの変化」、
2009年に提唱された「トリプルメディア戦略」の説明に続き、
最近のインターネットによる顧客サービスの事例の解説でした。 

マーケティング業界の最近の流れは、製品の拡販を除き、できるだけ
電話サービスを利用しないで済む方向へシフトしているというものです。 
ケータイはじめ、iPhone、スマートフォン、iPadなど多様な情報携帯端末が
普及した現在では、家庭や企業の固定電話の利用が極端に減っているので、
電話を通じてのお客様サービスの重要度が低下してきています。 

テレマーケティングの可能性は、インターネットと如何に連動するかにかかって
きている、と川野さんは語ります。 

しかし、ネットワークのシステムを構築するのは、IT関連の企業ですから、
川野さんの会社の次なる課題は、コールセンター運営で培ってきたノウハウを
活用して、如何に企業に効率的・効果的な販促ツールやシステムを提案
できるか、コンサルテーション業務ができるかではないかと思いました。

 
 
3 「電話」が持つ機能と役割について

「メディアとしての電話についての書籍は非常に少ない」、
「骨伝導の可能性」という2つの話しから、電話の未知の魅力や機能に
今後注目が集まるかもしれない、という川野さんならではの示唆がありました。 

最後は、電話を商売にしている川野さんが、就業中に遭遇した
アウトバンドコール(営業用の電話)によって、痛感させられた電話の
負の影響力について、実際の録音を聞きながらの話しでした。 

川野さんの分析のように、  
☆電話の短時間での強い影響力
☆電話の暴力性
☆迷惑電話の撃退法
が良く分かった事例でした。 

メディアとしての「電話」について、考えさせられた発表でした。 

参加者からは、第2弾を望む声が多く、
川野さんのネクスト・テルに期待が集まります。

<おまけ>
あまり多くない「電話」についての書籍をアマゾンで調べてみました。
興味を惹かれたタイトルを少し・・・。
いずれも興味をそそられるタイトルです。

1) 『「声」の有線メディア史
 一共同聴取から有線放送電話を巡る”メディアの生涯”』  
 坂田謙司 世界思想社 2005年

2) 『メディア文化の社会学』  
 加藤晴明 福井出版 2001年

3) 『古いメディアが新しかった時 
 一19世紀末社会と電気テクノロジー』  
 キャロリン・マービン 新曜社 2003年

4) 『「声」の資本主義一電話・ラジオ・蓄音機の社会史』
  (講談社選書メチエ シリーズ)  吉見俊哉 講談社 ?年

(報告者:齊藤 正純)

2011年10月25日火曜日

11月例会のお知らせ

企業と消費者のコミュニケーション
  ~ コールセンターという接点からの考察

【日時】2011年11月11日(金) 18:30~

【場所】相模原市南新町児童館
(小田急相模大野駅南口徒歩5分 南口を出て駅を背に直進、3つ目の信号「相模大野9丁目」、「アイ眼科」の角を右に入り、左側2件目)

11月の例会は私(川野克俊)からの発表をベースに実施させて頂ければと思います。
宜しくお願いします。 





さて、突然ですが 「インターネットの接続が上手くいかない」「クレジットカードを紛失してしまった」など何らかの理由でコールセンターに電話を掛けたことはありませんか? あるいは「○○キャンペーン中です。○○に入会しませんか?」などという勧誘の電話を受けたことはありませんか? 

私はこのような、企業とお客さまとを結ぶ電話の窓口である「コールセンター」を運営する会社に勤務しています(・・・と言ってもコールセンターの現場にはいないのですが)。 今回は、企業の消費者に対するコミュニケーションを「コールセンター」という顧客接点を通して知ってもらうことで、みなさまのメディア理解あるいはメディアリテラシー理解を深める一助になれば幸いです。

【発表内容】

1. コールセンターの業務とは?

ここではコールセンターという業務の内容を大まかにお伝えします。 また、企業とお客さまの会話を録音した音声をいくつか聞きながら、どのような観点で電話応対の品質を管理しているかなどを見ていきたいと思います。

<キーワード>
・コンタクトセンターの歴史 ・テレマーケティングジャパン ・コンタクトセンターの運営 
・KPI (Key Performance Indicator)管理 ・応対品質 ・顧客満足度 ・ミステリーコール・Voice of customer 

2. マーケティングの変遷とコンタクトセンター
企業のマーケティング活動は「新規顧客の獲得(アクイジション)」重視から「顧客維持(リテンション)」重視になってきています。 ご存知の通り、インターネットの登場で私達の周りに存在する情報量は爆発的に増え、単純なマス広告では認知が得られなくなってきているためです(=新規顧客の獲得単価が増大)。そのような中でコールセンターがマーケティング活動に寄与出来ることは何なのか?日々模索しています。その模索している内容の一部を紹介させて頂きます。

<キーワード>
・データマイニング ・テキストマイニング ・チャットサポート ・Twitterを使ったアクティブサポート 
・FAQ ・感情解析

3. 「電話」が持つ機能と役割について
電話は、メディアとしてどのような機能を持つのか十分認識されないまま顧客接点のチャネルとして使われ続けてきてしまっており、その結果として、電話の役割が限定的になってしまっている、あるいは本来あるべき役割を果たしていないのではないか? と常々考えています。 生かすべき電話の本来の機能とは何なのか?どのような役割を果たすことが出来るのか?いくつかの考えをお示ししたいと思います。

【発表者略歴】Japan Market Research Bureau、Conre、Synovateというマーケティングリサーチ会社において、B to C およびB to Bのリサーチ経験を経て、現在、ベネッセコーポレーションのグループ会社でコールセンター運営をしている「テレマーケティングジャパン」において、マーケティング施策などの提案を行う。

事前の予約は不要、どなたでも参加できます。
 

2011年9月10日土曜日

9月例会のお知らせ                    出版文化から見る現代日本のマンガ

日時:2011916日(金)1830

場所:相模原市南新町児童館

(小田急線相模大野駅南口徒歩5分 南口を出て駅を背に直進、3つ目の信号「相模大野9丁目」、「アイ眼科」の角を右に入り、左側2軒目)

4月より東大大学院生涯学習基盤経営コース修士1年として、久々の学生生活をおくっています。

「出版文化論」の授業で、受講生は2度の発表を課され、マンガをテーマに行いました。

日本のマンガは、海外で高い評価を受けている割には、日本国内ではそれほどでもないという状況があります。「図書館雑誌」20118月号では、アメリカの公共図書館のマンガコーナーが写真入りで紹介(532533p)されていますし、『シカゴ・ボストン・ニューヨークに見る探究型学習を支える学校図書館』(全国学校図書館協議会 2009)でも、日本のマンガ(MANGA)の人気が高いことがあちこちのページで書かれています。授業での2回の発表と、2003年にアメリカで行った発表「学校図書館とマンガ」、さらに実物もほしいとのことだったので私のお気に入りマンガ数冊を持参して行う予定です。

マンガの現在の状況を、出版流通、文化、海外での受容など、いろいろな視点から見ていきたいと思います。



1 戦後日本のマンガの出版流通

2 マンガと社会、文化

3 学校図書館とマンガ(パワーポイント)



報告者:高橋恵美子



無料 どなたでも参加できます。

2011年8月23日火曜日

発表者のため息 ~7月例会の発表を終えて~

7月例会のテーマは、「絵巻のアニマシオン&メディアリテラシー」。

絵巻と映像の表現の違いや、絵巻の魅力の一端を皆様にご披露したい
という思いで発表に臨みました。
例会での発表を終え、最も嬉しかったのは、皆さんが手製の
『長谷雄草紙絵巻(4/5サイズの縮小版)』に感動してくれたことです。
絵巻の発表で絵巻で見せないことは全く考えられなかったので、
絵巻を作成することは最初からのプランでした。


発表前の一週間は、
?絵巻をプリントする紙は和紙が良いのでは、
?いや絹目の方が格調高いのでは、
?元々の紙の切れ目と新しいつなぎ目が上手く繋がるか、
?絵巻の軸をどうするか、
?見せる際にどのように見せたら良いか、
・・・などなど、
頭の中に大きなカオスを抱えながら、一紙ずつ繋いでいきました。

作ってみると、絵巻物がそれなりに存在感を持つことを実感したので、
当日会場設営の工夫で、どう見せるかはなんとか乗り切れるのでは、
と当日を迎えました。

この発表でのもう一つの課題は、
「四大絵巻」の全容を皆様にお見せすること。
アマゾンの中古本サイトで『信貴山縁起絵巻』、『源氏物語絵巻』を
格安に入手し、地元の図書館から『伴大納言絵巻』を借り、残る
『鳥獣人物戯画』も借りようと考えていました。
しかし、2日前日に行ったところで入手を断念し、
メールで皆様に御断りをしました。
当日も一応地元の図書館に足を運びましたが、ありませんでした。

私のSOSにジャスト・イン・タイム、タイムリーにお応えくださった
高橋さんが、当日の夕方に図書館から『鳥獣人物戯画』を借りて
くださったので、「四大絵巻」はなんとか皆様の前にそろい踏みする
ことができました。
日本を代表する絵巻が、
一同に会するのはなかなか壮観でした(自己満足)。

会場には中山さんが先にいらしており、
絵巻はバーっと開いていく方が良い、ということになり、
入口の引き戸も外してテーブル4本をセットしました。

いつもの例会とは全く違った、超・異例の会場レイアウト
となりました。
異様な雰囲気に、訪れた皆様もびっくり、落着かない様子でした。

手製の絵巻は、A4サイズ、幅約21センチの紙が39枚ですから、
819センチで約8メートルの長さになりました。
実物が約10メートルですから、コピーは約4/5のサイズだったことに
なります。

発表前に、最初の一紙から最後を低い目線で見ると、
我ながらなかなか良い景色・・・・
という満足感に浸れました(これも自己満足)。

発表内容は、「7月例会報告」に詳しいので、
省略させて頂きます。


絵巻についての考証は
さまざまな学問分野から多面的に実践できる、
それだけに絵巻は奥深いし、
歴史史料として素晴らしい文化財である、
という私の結論を裏付けするような、最近発見した市井の研究者の論を
ご紹介しましょう。

?『長谷雄草紙』の成立年代について、
 実際の長谷雄の生きた時代の「装束」の色からの考証です。
 ブログ『こおり砂糖の小説庫』の記事で、作者の経歴等は不明です。
 (※以下、抜粋要約しました。)

☆長谷雄は888年、43歳で「従五位下」に叙位されています。
☆貴族と言われるのは、「従五位下」より上の位階で、
 それより下の位階の者は「内裏に昇殿」出来ません。
☆衣装の色は階級によって、明確に決まっていました。
☆一条帝時代(980年~1011年)以前は
 一位深紫(こきむらさき)、
 二位、三位が浅紫(あさむらさき)、
 四位が深緋(こきひ/濃い赤)、
 五位が”浅緋(うすあけ/薄い赤)”、
 六位が深緑(ふかみどり)、
 七位が浅緑(あさみどり)、
 八位が深縹(ふかはなだ/濃い水色)、
 初位が浅縹(あさはなだ/薄い水色)、
 
 簡単に言うと、
 紫→緋(赤系)→緑(グリーン系)→縹(ブルー系) という序列です。

☆一条帝時代以後、つまり11世紀の初頭以後の「装束」の色は、
 一位~四位が黒橡(くろくぬぎ)、
 五位が蘚芳(すおう/紅紫)、
 六位が深縹(ふかはなだ/濃い水色)、
 七位以下は決まりはなくなっていますが、大体が紫です。

 黒→蘚芳(赤紫)→縹(ブルー系)→紫 という序列です。

☆長谷雄の生きた時代ですと、着用しなければならない衣装の色は”浅緋”
 (うすあけ/薄い赤)ですが、『長谷雄草紙』書いた絵師は、長谷雄の
衣装を黒として描いていますから、自分が生きていた時代、つまり13世紀
 の貴族の装束を描いているのではないでしょうか?

・・・という記事でした。
但し、この衣装の色はハレの日、公式行事の時の決まりで、
日常的な参内でも適用されたかどうかは不明(未調査)です。

とはいえ、いろいろな角度から考証・考察できる絵巻の魅力に
改めて感心させられました。

今回の発表では、絵巻と映像の表現の違いを映像作家として検証する
意味もあったので、新たな発見目白押しで、絵巻の奥深さ(奈落の底まで)に
引きづりこまれそうな感がしました。

(記:齊藤正純)

2011年8月19日金曜日

7月例会報告

7月29日に行われた例会は、「絵巻」というメディアの奥深さを体感する実に楽しいものだった。


会場は、普段と違うしつらえ。長机が座敷を突き抜けて廊下にまでつなげて置かれており、開始前から期待が高まる。






仕事を終えて三々五々集まってくる参加者を待ちながら、斎藤氏が「絵巻」の「読み方」の基礎知識をレクチャー。

まず、絵巻物は何のためのメディアだったか?という点については、「貴族のナレーションつきの無声映画ですね。」そもそも「絵巻物」は、貴族がものがたりを読んでいるうちに絵が欲しくなって出来たもの。有名な『源氏物語絵巻』のように、場面を切っても成立する挿絵的な位置づけの絵巻もあるが、今回扱う『長谷雄草紙』のように動画的な特徴を持つものが、絵巻物としての特徴が明確で面白い。

注目すべき特徴として挙がったのは次の5つだ。
  1. 右から左に時間が流れている。基本はこれだが、絵巻によっては、左から右の動きなど敢えて他の動きを入れて変化をつけたり、意味を持たせたりしている。因みに西洋の巻物は、文字が横書きのため縦に開けて読まれるが、日本の絵巻物は横に肩幅に広げて読まれることを想定して作られている。右から左に場面が移ろう「順のパン」に時折挟み込まれる「逆パン」(左から右)は、日本の絵巻ならではの特徴のひとつだ。

  2. 吹抜屋台 絵巻物では、上空45℃の角度から俯瞰する視点が多く取られるが、室内の場面では屋根に阻まれてしまうことになる。内部の様子がわかるように生み出されたのが、屋根を取り払って描く「吹抜屋台」という技法であった。

  3. 異時同時 同じ場面で物語が展開する場合、同じ登場人物があたかもストロボで映し出されるように、動きを変えて何度も描かれるという技法。漫画の技法に通じるものがある。絵巻物が「無声映画」のように感じられるのも、このような工夫があるからかもしれない。

  4. 引目鉤鼻 貴族の顔は、全て目は細い線、鼻はくの字の一筆書きで描かれる。これは貴族であるということを示すマンガの記号のようなものだ。一方で、庶民は大変表情豊かに描かれている。

  5. 分業作業 絵巻は、工房のようなところで分業でつくられていたようだ。まさに今のアニメ工房と同じ。絵巻の作者の生活を描いた『絵巻草子』という絵巻があるが、それを見ると当時のアーティストの生活が貧困との闘いだったことがわかり、今と変わらないんだなぁと感慨深い。『絵巻草子』は、さしずめドキュメンタリー映像作品か。

参加者が7名になったところで、物語「長谷雄草子」のアニマシオンを開始した。

《ステップ1》
斎藤氏が「長谷雄草子」(桑原博史訳・講談社学術文庫)全文をコピーしたものを全員に配り、ものがたりを朗読する。全文と言っても1553文字なので、大き目のフォントで印刷してもA4の紙3枚に収まり、ちょうどよい分量だ。

《ステップ2》
朗読を聴いた後、文章を自分なりに4つの場面に段落分けをする。
《ステップ3》
絵コンテ作成用ワークシートを使い、2)の4つの場面を絵で表現する。
絵を描き込む必要はなく、シーンが分れば良い。結構しっかり描き込む参加者もいて可笑しい。
《ステップ4》
絵コンテを見せながら、全員が発表する。

重要なシーンは、5つ選べれば物語の筋がうまく説明できそうなのだが、敢えて4つに絞らなければならない。その難しさが視点の多様性を生んだように思う。
《ステップ5》
絵巻「長谷雄草子」を見て、絵巻の映像表現を確認しながら、自分が作った絵コンテと比較する。
ここで、斎藤氏がこの日のために夜なべし、プリンターインクを大量に消費して作り上げた労作 絵巻「長谷雄草子」のほぼ2分の1縮尺版が、かねてより準備してあった長机いっぱいに広げられる。









場面の全てに釘付けになる参加者。

最初にレクチャーを受けたポイントを、実際に見るととても楽しい。

さらに、自分で一旦4コマで場面を描いてみているから、表現の違い、「絵巻物」ならではの表現技法がはっきりと認識できる。
「動きを表そうとして成功している場面は、絵巻の傑作なところ」だそうで、深く納得する。マンガのように、トントンやらパチパチなどと思われる音の表現を線で描いていたり、実に楽しい発見がある。

斎藤氏によれば、日本四大絵巻などの傑作に比べると、手抜きや構図の甘さが見受けられるそこそこの作品だそうだが、ワークショップの題材としては、サイズといい、分量といい、内容もつっこみどころ満載でとても良かったと思う。

計画では、アニマシオンのあとで、解説のはずだった。実際に授業や子ども向けワークショップでやる場合には、やはりその順番の方がいいだろう。

その後は、勝手にフリートークに突入。

中納言が、伴のものもつけず、徒歩で街中を歩くなど当時はあり得ないことらしいが、無類の双六好きで、見知らぬ男に双六勝負を挑まれてふらふらとついて行ってしまう場面での、庶民の描かれ方。当時は庶民の生活を詳細に描き込むことが流行だったらしく、主人公長谷雄の移動に場面の多くが割かれている。う~ん興味深い。

それに「双六」だ。今お正月に我々が遊んだりする「双六」とは全く違うゲームらしいが、はっきりしたことは分っていないそうだ。鬼も中納言も夢中になるゲーム。う~ん興味深い。

絵巻ってシネスコサイズなんですよね~ 絵巻のサイズは縦が30cm前後。それを大人の肩幅より少し広い60~80cmに広げて鑑賞する。縦30cm×横80cm この3:8という比率は、映画のシネマスコープの縦横比 1:2.35 と同じ。ハイビジョン(ビスタサイズ 1:1.85)よりずっと横長なのだ。日本人は中世からワイドに物を見ていた。う~ん興味深い。

映画と似てるけど、映画と決定的に違うのは視聴時間が決められていないこと。時間の流れもリニアじゃなく楽しむことも可能だ。う~ん興味深い。

こんなに面白い「絵巻」が、江戸時代中期17世紀には廃れてしまうのは何故か?そのころには「草子」つまり束ねられた本という形態のメディアが登場し、庶民もそれを楽しめるようになりつつあったのだ。う~ん興味深い。

話は尽きず、その後は恒例近所の焼き鳥屋さんに場所を移して議論は続いたのだった。

斎藤氏が今回紹介して下さった沢山の参考文献のうち、当研究所の所蔵となったのは次のとおり。

1)すぐわかる絵巻の見かた (東京美術 2006 年)         
2)信貴山縁起絵巻一躍 動する絵に舌を巻く (アートセレクション・シリーズ 小学館 2004年)
3)日本絵巻大成11 長 谷雄草紙・絵師草紙(小松茂美 中央公論社 1977年)

4)日本の美術10 絵巻物(秋山光和 小学館 1975年)              

5)名 宝日本の美術11  信貴山縁起絵巻(小学館 1985年)      

6)日 本の絵巻1 源 氏物語絵巻・寝覚物語絵巻(小松茂美 中央公論社 1987年)

また、以下のリンクから当日の資料をダウンロード可能です。ご興味ある方どうぞご覧下さい。

①「長谷雄草紙」絵巻の全画面
http://firestorage.jp/download/1cb7e2bb893fddd31d463bdd7ee7c5711b3d6bf0

②発表のレジメ&テキスト
http://firestorage.jp/download/e444bbe8c4fa445b2b1db21080e9ec39a306fd5c

③ワークシート
http://firestorage.jp/download/777ebcfa07ce5ae93ddb7ecf935b77467bb1b8eb



2011年6月29日水曜日

中世の奇話・日本のフランケンシュタイン物語        『長谷雄草紙』を読み解く!                  ~「絵巻」のアニマシオン&メディア・リテラシー~












         ☞7月の例会のお知らせ

〇日時:2011年7月29日(金) 17:20開場 場所:相模原市南新町児童館
 (小田急線・相模大野下車南口徒歩5分 南口を出て駅を背に直進、3つ目の信号
 「相模大野9丁目」、「アイ眼科」の角を右に入り、左側2軒目)

<前口上>
 前回に引き続き「鬼談義」は勿論楽しめますが、今回はちょっとメディア・リテラシーを探究するワークショップ・スタイルの発表です。

 「絵巻」は、空間・時間の表現が映像とは全く違った、「絵巻」独特の技法・手法で行われている と長年思っていましたが、最近感銘を受けた「映像」の表現を超越した素晴らしい魅力がある ことをご紹介します。
 「絵巻」には映像を時系列に沿ってリニアに記録するテープと同じようなメディア、と思われがちですが、さにあらず! 
 磁気テープでは物理的に時間に逆行することはできませんが、常識的に「右から左へと 時空間が流れる絵巻」では、全く逆に「時空間を左から右へ」流すことも可能 なのです。
 「絵巻」では、本筋は右から左へとリニアに流れながらも、あるシーンだけ「左から右への時空間の流れの表現」が可能 なのです。
 有名なクリストファー・ノーランの映画『メメント』に代表されれるような時間の逆行が、部分的に可能なのです。
 「絵巻」は映画以上に見る者に対して「時空間を超えたイマジネーション」を提供する世界最大のエンターテインメントと言っても過言ではないでしょう。 
 ただ、残念なことにその素晴らしさを体現できる観客は、映画ほど多くはありません。 
 しかし、テレビよりは多いと思われます。
 
 最初は「絵巻」のアニマシオンです。
 ①「絵巻」の原作となった物語を聞き、
 ②そのストーリーを4コマの画として表現しながら、
 ③実際の「絵巻」の絵と比較するワークショップを通じ、
 「絵巻」のアニマシオンを体験して頂きます。
 
 ここで取り上げる「絵巻」は、不思議な「鬼」の登場する前代未聞、奇妙キテレツ、日本絵巻史上 希有な存在である作者不詳の『長谷雄草紙』です。
 菅原道真と同時代に実在した文学博士の紀長谷雄(きのはせお)。 
 一族の祖先には紀貫之などがいる名門・紀家の長谷雄が都の朱雀門で「鬼」と双六をい、これに勝って絶世の美女を譲り受けます。 
 しかし、その美女は・・・なんと「鬼」がつくった鬼造人間でした。 
 日本版・フランケンシュタインとも呼ぶべき奇妙なこの話しは、他の説話・絵巻にはありません。 

 『長谷雄草紙』の絵解きの後は、「絵巻」のメディア・リテラシー紹介です。
 日本の四大絵巻(一説には 『鳥獣人物戯画』を除いた三大絵巻ともいわれる)といわれる『源氏物語絵巻』、『信貴山縁起絵巻』、 『伴大納言絵巻』、『鳥獣人物戯画』を基に「絵巻」の技法・種類を紹介、「絵巻」の魅力を探ります。

 事前の予約は不要、どなたでも参加できます。

〇発表者
 映像プランナー 齊藤 正純

2011年5月10日火曜日

☯ 5月例会のお知らせ                    「鬼」はどのようにメディア上で表現されてきたか?

テーマ:「鬼」はどのようにメディア上で表現されてきたか?     
    ~日本に存在しない学問領域・鬼学への誘い~


日時:2011年5月27日(金)18:30~
場所:相模原市南新町児童館

(小田急線相模大野下車南口徒歩5分 南口を出て駅を背に直進、
3つ目の信号「相模大野9丁目」、「アイ眼科」の角を右に入り、左側2軒目)

<前口上>
「鬼」について語り始めると、鬼鬼(嬉々)として止まらなくなり、
百夜はおろか千夜は必要となります。
日本のあらゆる学問領域からはみ出した、いわば境界の外の存在である
「鬼」は、 歴史的な時系列で整理することによって
日本人と「鬼」との関わりが おぼろ気に見えてきます。

「鬼の事件簿」として歴史的な縦軸を設定した時、
そこに関連してくる事実や事象が、今に語り継がれるさまざまな「鬼」に
関わりがあることを皆さんに知って頂きたいと、本鬼(気)に思っています。

日本人が「鬼」に対して抱いてきた鬼(気)持ちが浮き彫りになります。
さまざまな学問の領域では真剣に取り上げられことの少ない「鬼」ですが、
「鬼」について語り始めると・・・
「鬼と美術」、「鬼と民俗」、「鬼と子ども」、「鬼と民俗芸能」、「鬼と神話」、
「鬼と地獄」、「鬼と仮面」、「鬼と祭り」、「鬼と仏教」、「鬼と年中行事」、
「鬼と語り物」、「鬼と文学」、「鬼と鬼瓦」
・・・不思議なのですが、「鬼」はいろいろな分野と関係していることが
分かってきます。これは何故でしょう?

「鬼イントロデューシング」&「鬼プロフィール」という2つのカテゴリーから、
「鬼」がこれまで日本人にどのように表現されてきたのかを探っていきます。

ちょっと懐かしくて、少し頭をひねって考える、
皆さまにそんな鬼(気)持ち良い時間を過ごして頂ければと思います。


報告者:「鬼」族の末裔:齊藤正純

☯どなたでも参加できます!

2011年4月16日土曜日

4月例会のお知らせ                 フランスの公共図書館のアニマシオンから

昨年夏、日本図書館協会学校図書館部会夏季研究集会で、フランスの学校図書館事情とともに、メディア教育の状況を知ることができました。フランスでは、1989年に学校図書館専任専門の「ドキュマンタリスト教諭」資格が新設され、このドキュマンタリスト教諭はメディア教育推進に大きな役割を果たしています。

 学校図書館がメディア教育? と思われるかもしれません。昨年3月発行の『フランスの公共図書館60のアニマシオン』(ドミニク・アラミシェル著 辻由美訳 教育史料出版会 2010)を見ると、従来紹介されてきた図書館のアニマシオンの活動が、読書だけにとどまらない広い範囲の活動をさしていることがわかります。音楽や絵画、画像・映像分析の分野が入っていることに驚かされます。

 『フランスの公共図書館60のアニマシオン』のなかから、二つを選んでやってみます。入手できる本の都合や、本当は何回かかけて行う活動を1回で行うなど、全く本の通りではありませんが、活動の趣旨を生かして、実験的に行います。


1 物語と映画  今昔物語と川本喜八郎の短編アニメ(8分)

2 アンソニー・ブラウンの絵本とシュールレアリスム

3 付録


報告者:高橋恵美子


無料 どなたでも参加できます。


日時:2011422日(金) 1830分〜

場所:都合により変更になりました。詳しくはコメントをご覧下さい。

2011年2月18日金曜日

2011年 2月例会

DVDで見る、所員中澤の今年一年メディアリテラシー総決算

 3年後の平成25年度から新学習指導要領が実施されます。専門教科でない共通教科の情報科は「社会と情報」か「情報の科学」が必修科目になります。これまで以上にコンピュータの扱いと社会との接点がより強くもとめらるようになりました。メディアとの関係はどうあるべきか?今問われてますが、進歩がはやくて、はやくて、とても追いつかない。とかく振り回されがちな情報メディアや表現メディアの発達ですが、コンピュータをうまいこと利用して、私たちの教育の手段として、はたまた表現手段として活用することこそが、管理、禁止、規制でがんじがらめにならない真のメディアリテラシーであると信じてます。そんな信念で、今年一年の総決算をオリジナルDVDで見てみます。DVDは3本。

①Basic 10 for High Schoolers
②妄想リバウンド
③ギルとラビ

①はNHKが作成した10分ものの作品です。英語版です。2010年の日本賞への参加作品。高校での基礎基本を学び直すためのNHK高校講座の一シリーズであるベーシック10を例えば厚木清南高校通信制では基礎講座で活用した。そうした取り組みが紹介されています。中澤がインタビュー取材されています。②と③は清南高校通信制映画部の2010年作品です。妄想リバウンド(20分)は実写ドラマです。ケロミン&小ケロミンが冒頭に登場します。②はアニメというか、絵をコマ撮りした紙芝居風の作品です(10分)。映画部の面々が頑張って製作したこの二作品を見て、ご意見や批評をお願いします。というか、楽しんでください。

日時:  2011年2月25日(金) 6時30分~ 
場所:  相模大野駅下車  「南新町児童館」