2011年8月19日金曜日

7月例会報告

7月29日に行われた例会は、「絵巻」というメディアの奥深さを体感する実に楽しいものだった。


会場は、普段と違うしつらえ。長机が座敷を突き抜けて廊下にまでつなげて置かれており、開始前から期待が高まる。






仕事を終えて三々五々集まってくる参加者を待ちながら、斎藤氏が「絵巻」の「読み方」の基礎知識をレクチャー。

まず、絵巻物は何のためのメディアだったか?という点については、「貴族のナレーションつきの無声映画ですね。」そもそも「絵巻物」は、貴族がものがたりを読んでいるうちに絵が欲しくなって出来たもの。有名な『源氏物語絵巻』のように、場面を切っても成立する挿絵的な位置づけの絵巻もあるが、今回扱う『長谷雄草紙』のように動画的な特徴を持つものが、絵巻物としての特徴が明確で面白い。

注目すべき特徴として挙がったのは次の5つだ。
  1. 右から左に時間が流れている。基本はこれだが、絵巻によっては、左から右の動きなど敢えて他の動きを入れて変化をつけたり、意味を持たせたりしている。因みに西洋の巻物は、文字が横書きのため縦に開けて読まれるが、日本の絵巻物は横に肩幅に広げて読まれることを想定して作られている。右から左に場面が移ろう「順のパン」に時折挟み込まれる「逆パン」(左から右)は、日本の絵巻ならではの特徴のひとつだ。

  2. 吹抜屋台 絵巻物では、上空45℃の角度から俯瞰する視点が多く取られるが、室内の場面では屋根に阻まれてしまうことになる。内部の様子がわかるように生み出されたのが、屋根を取り払って描く「吹抜屋台」という技法であった。

  3. 異時同時 同じ場面で物語が展開する場合、同じ登場人物があたかもストロボで映し出されるように、動きを変えて何度も描かれるという技法。漫画の技法に通じるものがある。絵巻物が「無声映画」のように感じられるのも、このような工夫があるからかもしれない。

  4. 引目鉤鼻 貴族の顔は、全て目は細い線、鼻はくの字の一筆書きで描かれる。これは貴族であるということを示すマンガの記号のようなものだ。一方で、庶民は大変表情豊かに描かれている。

  5. 分業作業 絵巻は、工房のようなところで分業でつくられていたようだ。まさに今のアニメ工房と同じ。絵巻の作者の生活を描いた『絵巻草子』という絵巻があるが、それを見ると当時のアーティストの生活が貧困との闘いだったことがわかり、今と変わらないんだなぁと感慨深い。『絵巻草子』は、さしずめドキュメンタリー映像作品か。

参加者が7名になったところで、物語「長谷雄草子」のアニマシオンを開始した。

《ステップ1》
斎藤氏が「長谷雄草子」(桑原博史訳・講談社学術文庫)全文をコピーしたものを全員に配り、ものがたりを朗読する。全文と言っても1553文字なので、大き目のフォントで印刷してもA4の紙3枚に収まり、ちょうどよい分量だ。

《ステップ2》
朗読を聴いた後、文章を自分なりに4つの場面に段落分けをする。
《ステップ3》
絵コンテ作成用ワークシートを使い、2)の4つの場面を絵で表現する。
絵を描き込む必要はなく、シーンが分れば良い。結構しっかり描き込む参加者もいて可笑しい。
《ステップ4》
絵コンテを見せながら、全員が発表する。

重要なシーンは、5つ選べれば物語の筋がうまく説明できそうなのだが、敢えて4つに絞らなければならない。その難しさが視点の多様性を生んだように思う。
《ステップ5》
絵巻「長谷雄草子」を見て、絵巻の映像表現を確認しながら、自分が作った絵コンテと比較する。
ここで、斎藤氏がこの日のために夜なべし、プリンターインクを大量に消費して作り上げた労作 絵巻「長谷雄草子」のほぼ2分の1縮尺版が、かねてより準備してあった長机いっぱいに広げられる。









場面の全てに釘付けになる参加者。

最初にレクチャーを受けたポイントを、実際に見るととても楽しい。

さらに、自分で一旦4コマで場面を描いてみているから、表現の違い、「絵巻物」ならではの表現技法がはっきりと認識できる。
「動きを表そうとして成功している場面は、絵巻の傑作なところ」だそうで、深く納得する。マンガのように、トントンやらパチパチなどと思われる音の表現を線で描いていたり、実に楽しい発見がある。

斎藤氏によれば、日本四大絵巻などの傑作に比べると、手抜きや構図の甘さが見受けられるそこそこの作品だそうだが、ワークショップの題材としては、サイズといい、分量といい、内容もつっこみどころ満載でとても良かったと思う。

計画では、アニマシオンのあとで、解説のはずだった。実際に授業や子ども向けワークショップでやる場合には、やはりその順番の方がいいだろう。

その後は、勝手にフリートークに突入。

中納言が、伴のものもつけず、徒歩で街中を歩くなど当時はあり得ないことらしいが、無類の双六好きで、見知らぬ男に双六勝負を挑まれてふらふらとついて行ってしまう場面での、庶民の描かれ方。当時は庶民の生活を詳細に描き込むことが流行だったらしく、主人公長谷雄の移動に場面の多くが割かれている。う~ん興味深い。

それに「双六」だ。今お正月に我々が遊んだりする「双六」とは全く違うゲームらしいが、はっきりしたことは分っていないそうだ。鬼も中納言も夢中になるゲーム。う~ん興味深い。

絵巻ってシネスコサイズなんですよね~ 絵巻のサイズは縦が30cm前後。それを大人の肩幅より少し広い60~80cmに広げて鑑賞する。縦30cm×横80cm この3:8という比率は、映画のシネマスコープの縦横比 1:2.35 と同じ。ハイビジョン(ビスタサイズ 1:1.85)よりずっと横長なのだ。日本人は中世からワイドに物を見ていた。う~ん興味深い。

映画と似てるけど、映画と決定的に違うのは視聴時間が決められていないこと。時間の流れもリニアじゃなく楽しむことも可能だ。う~ん興味深い。

こんなに面白い「絵巻」が、江戸時代中期17世紀には廃れてしまうのは何故か?そのころには「草子」つまり束ねられた本という形態のメディアが登場し、庶民もそれを楽しめるようになりつつあったのだ。う~ん興味深い。

話は尽きず、その後は恒例近所の焼き鳥屋さんに場所を移して議論は続いたのだった。

斎藤氏が今回紹介して下さった沢山の参考文献のうち、当研究所の所蔵となったのは次のとおり。

1)すぐわかる絵巻の見かた (東京美術 2006 年)         
2)信貴山縁起絵巻一躍 動する絵に舌を巻く (アートセレクション・シリーズ 小学館 2004年)
3)日本絵巻大成11 長 谷雄草紙・絵師草紙(小松茂美 中央公論社 1977年)

4)日本の美術10 絵巻物(秋山光和 小学館 1975年)              

5)名 宝日本の美術11  信貴山縁起絵巻(小学館 1985年)      

6)日 本の絵巻1 源 氏物語絵巻・寝覚物語絵巻(小松茂美 中央公論社 1987年)

また、以下のリンクから当日の資料をダウンロード可能です。ご興味ある方どうぞご覧下さい。

①「長谷雄草紙」絵巻の全画面
http://firestorage.jp/download/1cb7e2bb893fddd31d463bdd7ee7c5711b3d6bf0

②発表のレジメ&テキスト
http://firestorage.jp/download/e444bbe8c4fa445b2b1db21080e9ec39a306fd5c

③ワークシート
http://firestorage.jp/download/777ebcfa07ce5ae93ddb7ecf935b77467bb1b8eb



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