2012年2月11日土曜日

フレデリック・ワイズマン「基礎訓練」を見る  報告その3



 フルメタルジャケットとの比較

最後に自分の相模原青陵高校(当時相武台高校)での授業実践などを踏まえて書き足してみたい。「基礎訓練」の存在すら知らずに「フルメタルジャケット」を授業で見せた。確か「フルメタルジャケット」の行進シーンのCMが流行ったころだった。アメリカの青年がいかにして人を殺せるマン・マシーンに改造せられていくかを観るものまで生理的に苦しいところまで引きずり込むメッセージの強い映画として捉えた自分は、洗脳について考える授業とした。これは、齋藤孝先生の明治大学での実践に倣って、それを自己流にアレンジしたもの。
「フルメタルジャケット」では行進曲のリズムの可笑しさこそあったものの、鬼軍曹の管制により、徹底的に入所前のアイデンティティーを抹消され(髪型、服装、なまり、名前、出身地など)、プライドを完膚無きまでに破壊され(罵詈雑言のシャワー、下ネタ)、連帯責任の下に弱小者はいじめられ、排除され、と要するに完全に命令に従うだけの集団、ある意味、戦闘能力の序列もとの平等な集団が形成される。ドロップアウトしたものは狂って、自死することによってしかそこから解放されない世界だった。従って、授業者の私は、洋の東西を問わず、軍隊というものはそこまで、平時の感覚からかけ離れたものかと思い、感覚を変容させるテクニックの恐ろしさを生徒たちに思い至らせるような授業を設定した。今思うと、方向付けが明確な、ある意味「洗脳」授業だった。ミイラをとりにいってミイラになったような授業だった。
「基礎訓練」を見た今、映画の中の軍隊を実際の軍隊と思いこんだ自分の浅はかさに恥じ入るばかりである。また、第2次世界大戦の日本軍の滅私奉公的な組織とは明らかに違うアメリカの軍隊のしたたかさを感じた。個々を大事にすることにより全体の力の維持向上を図るアメリカには、負けたら玉砕して帰ってくるなと兵士を送り出して衰弱していった国からすれば到底かなわない相手なのかもしれない。それにしても晴れがましい出所式のラストシーンは、強力な組織が印象づけられる。ワイズマンの関心は個々の人間だけでなく、人間をいかようにも振る舞わせる組織そのものなんだなあと思う。

というわけで、フィクション映画である「フルメタルジャケット」とリアリティフィクション映画(ワイズマンの定義による)「基礎訓練」を見比べて、フィクションって何?リアリティって何?を考える授業はきっと面白いと思います!

おまけ
「全貌フレデリック・ワイズマン」に港千尋先生が書いている「いまそこにある戦争」も是非読んで下さい。
(中山周治)

1 件のコメント:

  1. 齊藤です。

    ドキュメンタリーの前半部では、舞台となったフォート
    ノックスの地名が強く頭にこびり付いて、『007/
    ゴールドフィンガー』のシーンを思い浮かべて
    おりました。

    スパイと戦争は関係がなくもないですが・・・・。

    事実の方が温もりがあり人間的で、映画『フルメタル・
    ジャケット』というフィクションの方が非情・非人間的
    というのが、明らかとなったアメリカ陸軍でした。
    映画『愛と青春の旅立ち』に似たヒューマンな印象さえ
    持ちました。

    最後のゲリラ戦の訓練が、妙にゆるかったのが印象的
    でした。
    もっと、厳しい訓練映像を想像していた私にとっては、
    完全にハズされた、裏を取られた感じです。

    でも、実際の戦場・ベトナムは訓練とはかけ離れた
    想像を絶する地獄でした。
    精神を病んだ若者が多数出ました。
    命からがら帰国しても殺人者と蔑まれました。

    事実を映した映像より、作った映像の方が数段
    リアリティと迫力があります。
    フィクションはそれを狙っていますから、
    当然といえば当然です。

    太平洋戦争中の日本軍やベトナムでのアメリカ軍の
    映像を見ていても、人が殺されるシーンは実に
    あっけらかんとしています。
    頭部が破裂するでもない、血が飛び散るわけでもなく、
    「バーン」と撃たれて「パタッ」と倒れるだけです。

    火災でビルから飛び降りる人や津波に飲み込まれる人
    など、災害の映像もライト感覚です。

    真実の方が、言葉は悪いですが、
    ソフトで軽いのですね。

    それにしても、ベトナム戦争を知らない若い世代が
    この映画を見て感じるのは、当日若い方が言っていた
    ように「学校と一緒じゃん!」なんでしょうかね。

    いろいろと考えさせられた映画でした。

    ベトナム戦争は随分前のことなんですね。
    1990年代の湾岸戦争が、遠い過去のことになっている
    のですね。

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