2011年11月16日水曜日

■11月例会発表レポート                      『企業と消費者のコミュニケーション              ~コールセンターという視点からの考察~ 』


3回連続、雨天の中で開催された11月例会ですが、今回の発表者は、
夏以降例会に参加してくださっている川野さん。
コールセンターを運営しているテレマーケティング会社に勤務する川野さんは、
身近だが考察されることの少ない「電話」という19世紀からの歴史ある
メディアをビジネスで活用しています。 

19世紀からというと、非常に古いメディアのようですが、ケータイやインターネット
電話が急速に普及している現代では、仕事やコミュニケーションに欠かせない
重要な進化系メディアです。

発表は、大きく3つの節で、組み立てられました。
私たちの生活では身近ながらも、あまりその存在を考える機会のない
企業のコールセンター(コールセンターに対してプロフィットセンターとしての
存在価値を打ち出すために、「コンタクトセンター」ということもある)とういう
仕事について解説した
<1 コールセンターの業務>。 

続いて、企業のマーケティング活動の現状とコールセンターの果たす役割
についての解説した
<2 マーケティングの変遷とコンタクトセンター>。 

最後は、語られることの少なかった「電話」というメディアに関する川野さん的
考察である
<3 「電話」が持つ機能と役割について>。

1 コールセンターの役割 

テレマーケティング会社へ転職する前の川野さんのマーケティング会社に
おけるインドでの活動の話しが興味深かったです。
マーケティングとは、地道で細かい仕事が多いことを知りました。 

発表内容は、
「テレマーケティングの定義」に始まり、
「実際の業務のカテゴリーを示しての業務内容の紹介」、
そして、コールセンターによせられる消費者の意見・評価や川野さんの
考察を交えた「コールセンターに対する不満の分析」と展開しました。 

 話し方・応対マニュアルの究極とも言える40項目にもわたる
チェック項目があることを聞き、参加者も唖然・呆然・衝撃。
 

川野さんは、実際のコールセンターの女性オペレーター、業界内では
TSR(テレフォン・サービス・リプレゼンター)と呼ばれる彼女たちの応対品質を
チェックするミステリーコール(奇妙な名称?)を聞きながら、チェック項目等を
参考に評価するように求めました。 

 ミステリーコールとは、社員スタッフがお客様になりすまし、TSRの応対状況
から評価&チェックする偽電話のことです。 
TSRにとっては、評価のためのチェックとは知っていても、どれが
ミステリーコールかは分からない中で、真剣に対応せざるを得ないわけです。 

健康食品を販売している2企業へのミステリーコールは、かなり良い応対と
悪い応対の2例でしたが、これは皆はっきりと良否を判定できました。 

しかし、 
「こうした業務を日常的にやっていると、TSRを評価することが主目的に
なってしまうきらいがある。本当はセールス成績を挙げれば良いはずでは。
重箱の隅を突くような詳細なチェックが、本当に必要なのか疑問に思う
ことがある。」
との優しい川野さんの素直な感想が語られました。 

「TVショッピングやマスへの告知により、短時間に大量に販売する
受付業務では、詳細な商品知識や熟練度は必要なく、手順通りに
受注手続きを取れば良い。」、 
「本来はお客様とのファーストコンタクトが後の継続的な購買に繋がると
感じている。」、
「製品のテクニカルサービスでは、如何に解決するかが求めれれるから、
応対品質のポイントは観点が違ってくる。そもそも無料のサービスの場合は、
電話がつながりにくい回線数しか設けないし、低コスト化を図っている。」
・・・など。 
川野さんが業務で感じたジレンマを交え、解説は続きました。 

ここから、参加者のコールセンターやサービスセンターの利用経験を語り合う
時間となりました。 
家電製品、灯油ストーブ、パソコン、パソコン周辺機器など、さまざまな例が
示されました。 
TSRは企業の社員ではなく、契約・パート社員です。 
したがって、企業へのロイヤリティ(帰属意識)や商品に対する特別な思い入れ
はないのが普通です。 
しかし、電話を通じ、企業の顔としてお客様に接する重責を負わされているので、
お客は容赦ないようです。 
TSRたちは、応対で感じるストレスや監視に対する不安・疑問をひた隠しに
しながらも業務を遂行しています。 

かつて、電話交換手が、「完璧な交換手」としての規格化された質を量産する
訓練システムを生み、交換事業の拡大、スピードアップ、監視の強化の中で、
労働環境はかなり悪化し、低賃金の3K職場へと転換した(加藤晴明著
『メディア文化の社会学』P53)ことを思い起こさせます。 

そもそも、女性電話交換手は、19世紀末、アメリカの上流階級の男性に対して、
声を通じて「愛」と「癒し」を提供する中産階級の女性にとっての花形職業
として登場した(松田裕之著『電話時代を拓いた女性たち』)とのことです。 

TSRの業務は、1980年代の後半に電気通信事業が解放されたのちに
企業向けのサービスとして生まれた新しい専門職です。 
企業の顔として、企業と消費者を結び付ける重要な業務として脚光を浴び
ました。 
しかし、川野さんの話のように、業務は詳細にわたり画一化・マニュアル化され、
効率化並びに即効果を要求され、厳しい眼で監視されています。
同じ「電話」メディアに関与しているということもあり、TSRがまさに
電話交換手と同じ運命を辿っていることに、歴史の宿命的を感じさせてくれます。 
 
川野さんの会社では、常時6,000名のTSRと契約しているとのことですが、
その育成プログラムや教育カリキュラムについての具体的な説明は残念ながら
ありませんでした。 
中澤研究員は、その辺りに興味を抱いているようです。 
「ビジネススクールにおける電話応対訓練に留まらず、声優養成スクールでの
教育にも応用ができるのでは。」と中澤研究員。

2 マーケティングの変遷とコンタクトセンター 

「マスマーケティングからダイレクトマーケティングへの変化」、
2009年に提唱された「トリプルメディア戦略」の説明に続き、
最近のインターネットによる顧客サービスの事例の解説でした。 

マーケティング業界の最近の流れは、製品の拡販を除き、できるだけ
電話サービスを利用しないで済む方向へシフトしているというものです。 
ケータイはじめ、iPhone、スマートフォン、iPadなど多様な情報携帯端末が
普及した現在では、家庭や企業の固定電話の利用が極端に減っているので、
電話を通じてのお客様サービスの重要度が低下してきています。 

テレマーケティングの可能性は、インターネットと如何に連動するかにかかって
きている、と川野さんは語ります。 

しかし、ネットワークのシステムを構築するのは、IT関連の企業ですから、
川野さんの会社の次なる課題は、コールセンター運営で培ってきたノウハウを
活用して、如何に企業に効率的・効果的な販促ツールやシステムを提案
できるか、コンサルテーション業務ができるかではないかと思いました。

 
 
3 「電話」が持つ機能と役割について

「メディアとしての電話についての書籍は非常に少ない」、
「骨伝導の可能性」という2つの話しから、電話の未知の魅力や機能に
今後注目が集まるかもしれない、という川野さんならではの示唆がありました。 

最後は、電話を商売にしている川野さんが、就業中に遭遇した
アウトバンドコール(営業用の電話)によって、痛感させられた電話の
負の影響力について、実際の録音を聞きながらの話しでした。 

川野さんの分析のように、  
☆電話の短時間での強い影響力
☆電話の暴力性
☆迷惑電話の撃退法
が良く分かった事例でした。 

メディアとしての「電話」について、考えさせられた発表でした。 

参加者からは、第2弾を望む声が多く、
川野さんのネクスト・テルに期待が集まります。

<おまけ>
あまり多くない「電話」についての書籍をアマゾンで調べてみました。
興味を惹かれたタイトルを少し・・・。
いずれも興味をそそられるタイトルです。

1) 『「声」の有線メディア史
 一共同聴取から有線放送電話を巡る”メディアの生涯”』  
 坂田謙司 世界思想社 2005年

2) 『メディア文化の社会学』  
 加藤晴明 福井出版 2001年

3) 『古いメディアが新しかった時 
 一19世紀末社会と電気テクノロジー』  
 キャロリン・マービン 新曜社 2003年

4) 『「声」の資本主義一電話・ラジオ・蓄音機の社会史』
  (講談社選書メチエ シリーズ)  吉見俊哉 講談社 ?年

(報告者:齊藤 正純)